「障がい者雇用率」水増し報道を受けて
多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ 櫻井博
東京新聞8月29日朝刊で官公庁の障がい者就労水増し問題について、小林理事長のインタビュー記事が3面にて大きく取り上げられました。
- 障がい当事者スタッフ(ピアスタッフ)である私の見解を少し書かせていただきたいと思います。
この記事について、誤解のないよう補足すると、精神障がい者はその特性で様々な症状があり一人一人症状も異なるし、仕事の特性でマッチングも大切だということです。つまり、紙面でいう精神の病を2つの特徴だとは簡単に言い切れないと考えています。
そもそも一般紙を読む読者の方で、障がい者に関わったことのない人の中には「障がい者って働けるの?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。
案外、障がい者に関する記事は、書き手の力量や読み手の力量などが問われる難しい問題のかもしれないと思いました。
後日談として、小林理事長から聞いた話なのですが、取材のときに説明した「チャレンジ雇用」の話が取り上げられなかったということです。行政が雇用を進める方法として、チャレンジ雇用というものを活用しているのですが、これについて私なりに少し解説したいと思います。
チャレンジ雇用※1)というのは、行政が1年間ぐらいの短い期間、障がい者を非常勤職員として雇う形態です。ハローワーク等にこの期間を就労した期間として報告し、その後民間企業へ就労する方もいます。すべてではないにしろ、このような雇用形態が、障がい者雇用としてカウントされていることは少し問題であると思うのです。
※1)チャレンジ雇用とは、障害者を、1年以内の期間を単位として、各府省・各自治体に おいて、非常勤職員として雇用し、1~3年の業務の経験を踏まえ、ハローワーク等を通じて 一般企業等への就職につなげる制度です (厚生労働省HPより)
残念ながら、障がい者就労という枠組みで働くかたが、正社員になれる確率はとても低いです。したがって、中央官庁こそチャレンジ雇用ではなく正職員として雇い、障がい者と一緒に働くということはどういうことか、現場で知ってもらう努力をしてもらうことが大切だと思います。
民間の会社はその意味では相当努力していると思います。雇用率が達成されなければ、罰金が課されることもその一因かもしれません。
但し、私としては、特例子会社という制度については若干の疑問を感じています。障がい者だけを集めて、同じフロアーで雇用することをいうのですが、大手の会社はこの制度を活用しているところもあります。確かにこのほうが障がい者を管理しやすいし、特性もいかされるかもしれません。が、しかし健康な人も障害のある人も一緒に働く社会、つまり共生社会という考えかたがあります。この考え方によると、この特例子会社というやり方は、共生という意味で疑問が残ります。
最後に、新聞の見出しとして「職場環境の整備を!」とあったのですが、小林理事長は障がい者雇用の問題は、制度や職場環境の整備はもちろんですが、働きたい障がい当事者の準備の必要性も常日頃話されています。そういう意味で、障がい者を雇う、働けるようになるには時間がかかるということを小林理事長は訴えたかったのではないかと思います。
就労移行支援事業所ピアスでも障害がある人は最大で2年間という期間のなかで、「1.就労トレーニング」「2.就労プログラム」「3.個別相談」を受けながら、働く為に必要な力をつけるために日々努力しています。この春の法改正によって雇用率が上がったことは喜ばしいことですが、制度上、雇用率が上がることのみに、たいていの方は一喜一憂しているのではありません。
働きたいという希望をもちながら、日々の就職への取り組みのなかで、自分自身を見つめ、成功体験を積み重ね、自信につながり就職しているのだということについて、社会の人に知っていただき、そして雇用という形も含めて、社会がより私達を受け入れてほしいと考えているのです。
私自身、このような文章を書きながら、新聞ではありませんが、考えを伝えることの難しさを実感しています。そして、今回の新聞記事を読んで、当事者スタッフである私の思いを書いてみました。
皆さんに伝わりましたでしょうか?
- 「本当の意味での共生社会の実現」こそが私の強い願いです。
(了)