新年度にあたり ~お祝いムードの後ろに透けて見えるもの~

法人本部 2019/04/10

平成30年度が終わり、31年度が始まりました。そしてこの平成も後一ヶ月で幕を閉じ、令和と名付けられた新しい時代がやって来ます。これで棕櫚亭の活動も昭和、平成、令和と三時代を跨ぐことになります。 今、世の中は新年号決定でお祝いムード一色です。しかし、福祉の現場から社会を見る限り、おおよそそこからはかけ離れた現実が見えてきます。

平成30年度は障害者総合支援法や障害者雇用促進法の改正、さらには報酬単価の見直し等様々な外部状況に揺るがされた年でした。 棕櫚亭でも、ピアスで就労定着支援事業を、なびぃでは自立生活援助事業を新たに展開し、オープナーでも精神障害者の職場定着のための新規二事業(「医療機関・就労支援機関連携モデル事」「精神障害者就労定着支援連絡会事業」)を受託しました。これらの事業を通し昨年度は今まで以上にたくさんの当事者の方や、関係機関の方に出会う事が出来ました。現場もいろいろ苦労はありますが、非常に盛況で多忙を極めつつも職員全員で頑張り切った1年でもありました。そこは確かにそうなのです。でもどうしても拭えない思い…

「本当に困っている人に私達は出会えているのか?」

それはどんな時代でも、自分達の支援が全ての人に届く訳ではありません。しかし、それを承知の上でも、その届かない感覚は年々広がる様に感じています。 今、福祉現場は報酬単価のという見えない鎖でがんじがらめにされ、そことの格闘でエネルギーを使い果たしているのが現状です。一方、経済の停滞や少子高齢化を背景に、社会問題はますます複雑化、深刻化しています。タイトになる福祉現場と、一見の豊かさで覆い隠されていく社会問題、出会わなければならない二者の溝はさらに深くなっていく様に感じてなりません。どんどん掻き消されて行く声に、私たちはどうコミットメントしていくのか?お祝いムードに浮かれる世の中を見ながら、その後ろに透けて見える本当の社会の姿を見続けて行かなければと思いを新たにしたところです。取材・メディア掲載/講演

今年は、棕櫚亭の30年をまとめた天野聖子著「精神障害のある人の就労定着支援~当事者の希望からうまれた技法~」が5月28日に発売されます。ここには正に、社会にコミットメントし続けて来た棕櫚亭の足跡が記されています。ぜひ皆さんご一読下さい。 そして今年度も棕櫚亭をどうぞよろしくお願いいたします。

理事長 小林 由美子

当法人ホームページ www.shuro.jp で近日中に

新刊予約ページをOPEN予定です!

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【連載】時事伴奏⑤~ニュースと共に考える(新年号)

法人本部 2019/01/10

新年明けましておめでとうございます。

今年は4月に新元号が発表され、新しい元号が5月から採用されるようです。私などは昭和・平成に加えて新しい元号までの3つの時代を生きることになるわけですから、自分が明治生まれの人達に抱いた感慨のようなもの、まぁ例えば「なんてこの人達は長生きなんだ」などという感情を、私に対して若い人達からはももたれるのかもしれませんね。

さて、昨年末に「ある風景」対談を行ないましたが、皆さんにも読んでいただけたでしょうか?対談の後半で「棕櫚亭でも引き続き、人材育成の必要性があり、課題である」と小林理事長が話されていましたが、この言葉が心に少し引っかかったまま正月休みに突入しました。

正月のテレビ番組は、紅白やお笑いなどが目白押しですが、先ほどのような考えが頭にあったものですから、ついつい人材育成にまつわるあるimages番組を観ましたので少し紹介したいと思います。

それは、「ひとモノガタリ」というNHKの番組で何日間か連続で様々な人を取り上げる番組です。一日目は「左官業」という人の定着率が極めて低い業種の会社で、「どうしたらこの会社で長く働いてもらえるか?」という取り組みを始めたという話でした。この会社では新人に一対一でつき、指導するということでした。いつも会社に遅刻して、将来に展望も描けないようなある若者が、お客さんの褒められた言葉を機に変わっていき、いずれかは一人で現場を任されるようになるという展望がみえてきてすばらしいと感じました。話しの要点は、この言わば「会社の問題児」をどのように育成するかという積極的人材作りにあり、その苦悩がよく描かれていることです。左官の親方が、若い人を手にもてあましながらも不器用に愛情を注ぐ姿に感動しました。

「ひとモノガタリ」の二日目は、卓球の平野未宇選手を育てた母親の話です。彼女の開いている卓球教室で、試合の時にみんなが一致団結して応援しなかったことに腹を立てて、子供達を怒ってしまったエピソードを取り上げていました。平野選手の母は、その後よくよく考えて、団結して応援しない状況をつくっていたのは自分で、その自分に対するふがいなさに実は腹を立てていたのだと気がつき、反省していたのが印象に残りました。

この二日間の番組では、人を育てる難しさや工夫が語られていましたが、少子化の中で人材育成にきちんと取り組まなければ、結局どこの業界もやがて先細りしていく危機感のようなものを私は感じました。

そんな中、私自身が一番興味を持ったのは、怒らない指導、共感の指導を学ぶことができたことです。

アドラーという心理学者の言う、その人の目で物事をみて感じて寄り添い、共感するという思想がそこに流れていることも感じました。アドラーは著書「嫌われる勇気」で有名になりましたが、続編「幸せになる勇気」ではこの共感することの大切さが書かれています。人に思いを寄せるときに、自分の目ではなく、その人の目から見える風景や心情を大切にすることは、小林理事長のおっしゃった、棕櫚亭の大切にしているパートナーシップを理解する上で必要不可欠かとも思いました。

つらつらと筆を走らせましたが、昨年末に小林理事長と語った「人材育成」について、年末年始のテレビ番組から考えてみました。

ところで、冬休み期間に、仕事のことを考える私ってやっぱり、昭和生まれの古いタイプの仕事人間なのでしょうか(笑)

新年の挨拶方々、文章を書き綴ってみましたが、時事伴奏を今年もよろしくお願いします。

ピアスタッフ 櫻井 博

アルジャジーラがやってきた!~放映編~

法人本部 2018/11/13

無2題

10月のお知らせで、省庁の障害者水増し雇用問題について、中東カタールに本拠地を持つアルジャジーラが取材に来たことをお伝えしました。
そして、今回はその第二弾。
今月9日にその模様が放映された事をお伝えいたします。

今回、棕櫚亭では水増し問題の取材を受けましたが、取材全体のテーマは「Japan’s disability shame」直訳すれば、「日本の障害は恥」と言う、もっと大きく、もっとショッキングなもの。
取材前には、「日本は、2020年にオリ・パラピックを控えているが、来日していつも思うのは、外で障害者に出会わないと言うこと。海外(とりわけ欧米)では、もっと普通にダウン症の子供等に出会うのに…そんな疑問に端を発したのが今回の企画です。日本人の障害者観が浮き彫りになる様なものになればと思っています。」と、そんな説明を受けました。

取材先は棕櫚亭の他に、旧優生保護法の下、精神病者にさせられ、無理やり精神病院に入院、強制不妊手術を受けた男性の半生や、津久井やまゆり園で起きた障害者殺傷事件の犠牲となり、辛うじて生き残った被害者家族の今。さらにはパラリンピックを目指す青年アスリートなど、30分番組では収まらない内容ばかりものばかりでした。

9日当日、私もインターネットで番組を見ましたが、言い方は不謹慎かもしれませんが、水増し雇用も吹き飛ぶ、それ以前の日本ひいては日本人が、障害者の尊厳をどの様に捉えているのかを大きく問われる様な番組の仕上がりでした。しかし、その延長線上に今回の省庁の水増し問題が繋がっているのだという事も痛感せずにはいられない30分間でした。

最後にこんな事を思い出します。取材時、インタビュアーがこんな事を私に問いました。「日本人は全てに完璧を求めすぎるのでは?」と。それは何かに限定された質問と言うよりは、今回の取材で彼が感じた日本全体への率直な感想だったように私には思えました。
日本が世界に誇る「おもてなし」。しかしこれは、もしかしたら障害者はもちろん、日本人全体にある窮屈さを強要しながら成り立っているのかもしれません。

精神障害者の幸せ実現を掲げながら、その問の答えに窮した私も、その中にどっぷり浸かった一人なのかもしれない・・・・そんな事を、アルジャジーラはやって来て、私に気付かせてくれました。
とにもかくにも、貴重な体験となりました。

理事長 小林由美子

アルジャジーラ*オンライン記事はこちらから

*映像はこちらから(1:40~)

アルジャジーラが棕櫚亭にやってきた!

法人本部 2018/10/12

官公庁の障がい者雇用水増し問題が公(おおやけ)になり、沸々と怒りが沸き起こりました。「何ということだろう、こんなに必死にメンバーさんも就労訓練して、企業側も一生懸命考えながら職場の受け入れをしてくれているのに!」あんなに「働けよ」「受け入れよ」とせっついていた、本家本元の行政機関がごまかしていた雇用率の数の多さに唖然としました。

「企業が雇用率をごまかしたら、さも鬼の首をとったように行政の指導に入るのだろうなぁ」と話しをしていたら、既報の通り、どういう伝(つて)か東京新聞からの取材があって、理事長の雄々しい(?)姿が社会面にデカデカとのりました。そして、その後も各方面からのインタビューなどが相次いだあと、今度はなんとあの「アルジャジーラ」の方々がやってきました。これは驚きです。

ご存知の方も多いかとは思いますが、何と言ってもイラク戦争でアルカイダ情報を流し続けたあの中東の新聞社です。「そんなところが、いったいなんで棕櫚亭に取材だ?」と職員が驚き悩むなか、なぜかメンバーさんは嬉しそうに受け入れをしてくれました。「確かに、そりゃそうかも」なにしろアルジャジーラの名前は世界に轟(とどろ)いています。ニューヨークタイムズでも、BBCのような大手でもなく、どういうわけかアルジャジーラの取材。日本の全国紙でもなく、一挙に世界に飛んでいったのも、何はともあれ興味を持ってくれるのは嬉しいから、理事長以下職員一同、メンバーさん達も大歓迎でウェルカム!

無題

「日本の障がい者雇用はどうなっている?」「働いているところが見えづらい」「訓練の厳しさは日本社会ならではなのか?」などなど、驚くほど真っ当な疑問質問のインタビューが山ほどあって、あっという間の6時間。何はともあれ、ともかくも精神障がい者の就職実現に向けてメンバーさん、職員の必死の実践はわかっていただけたようでした。打ち解けた取材の終わりには、職員メンバー入り乱れて、私たちからもアルジャジーラの正体(?)やら存在意義やら、根掘り葉掘り聞いたりして思いもかけない異文化交流もありました。

もう何年か後には、外国人受け入れがすすんでイスラムの若者がトレーニングに来ることがあるのかでしょうか?そういえば精神科病院の身体拘束で亡くなった青年はニュージーランドの人でした。外国人の存在が無視できない数になった頃には、手帳の有無や雇用率という数字は案外関係なくなるのかもしれません。

普段見過ごしてしまう大きな視点や先々への思いもめぐらしてくれた貴重な時間となりました。

この模様については、11月に英語版で海外放映されるとのこと。日本ではYou Tubeで視聴可能になるとのことですが、詳細がわかり次第、HPでもお伝えします。

ピアス通信11月号でも、障がい者雇用率改竄問題特集として「緊急!メンバーアンケート」「アルジャジーラにピアス通信員が逆取材!」で取り上げることになっています。

楽しみにお待ちください!

【連載】時事伴奏③~ニュースと共に考える

法人本部 2018/09/10

「障がい者雇用率」水増し報道を受けて

多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ 櫻井博

東京新聞8月29日朝刊で官公庁の障がい者就労水増し問題について、小林理事長のインタビュー記事が3面にて大きく取り上げられました。

      • 障がい当事者スタッフ(ピアスタッフ)である私の見解を少し書かせていただきたいと思います。

この記事について、誤解のないよう補足すると、精神障がい者はその特性で様々な症状があり一人一人症状も異なるし、仕事の特性でマッチングも大切だということです。つまり、紙面でいう精神の病を2つの特徴だとは簡単097d9e0c03342fb0ebf122b507073661_tに言い切れないと考えています。

そもそも一般紙を読む読者の方で、障がい者に関わったことのない人の中には「障がい者って働けるの?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。

案外、障がい者に関する記事は、書き手の力量や読み手の力量などが問われる難しい問題のかもしれないと思いました。

後日談として、小林理事長から聞いた話なのですが、取材のときに説明した「チャレンジ雇用」の話が取り上げられなかったということです。行政が雇用を進める方法として、チャレンジ雇用というものを活用しているのですが、これについて私なりに少し解説したいと思います。

チャレンジ雇用※1)というのは、行政が1年間ぐらいの短い期間、障がい者を非常勤職員として雇う形態です。ハローワーク等にこの期間を就労した期間として報告し、その後民間企業へ就労する方もいます。すべてではないにしろ、このような雇用形態が、障がい者雇用としてカウントされていることは少し問題であると思うのです。

※1)チャレンジ雇用とは、障害者を、1年以内の期間を単位として、各府省・各自治体に おいて、非常勤職員として雇用し、1~3年の業務の経験を踏まえ、ハローワーク等を通じて 一般企業等への就職につなげる制度です    (厚生労働省HPより)

残念ながら、障がい者就労という枠組みで働くかたが、正社員になれる確率はとても低いです。したがって、中央官庁こそチャレンジ雇用ではなく正職員として雇い、障がい者と一緒に働くということはどういうことか、現場で知ってもらう努力をしてもらうことが大切だと思います。

民間の会社はその意味では相当努力していると思います。雇用率が達成されなければ、罰金が課されることもその一因かもしれません。

但し、私としては、特例子会社という制度については若干の疑問を感じています。障がい者だけを集めて、同じ0d8ee6c371902d77196ab3bc4c976bd8_tフロアーで雇用することをいうのですが、大手の会社はこの制度を活用しているところもあります。確かにこのほうが障がい者を管理しやすいし、特性もいかされるかもしれません。が、しかし健康な人も障害のある人も一緒に働く社会、つまり共生社会という考えかたがあります。この考え方によると、この特例子会社というやり方は、共生という意味で疑問が残ります。

最後に、新聞の見出しとして「職場環境の整備を!」とあったのですが、小林理事長は障がい者雇用の問題は、制度や職場環境の整備はもちろんですが、働きたい障がい当事者の準備の必要性も常日頃話されています。そういう意味で、障がい者を雇う、働けるようになるには時間がかかるということを小林理事長は訴えたかったのではないかと思います。

就労移行支援事業所ピアスでも障害がある人は最大で2年間という期間のなかで、「1.就労トレーニング」「2.就労プログラム」「3.個別相談」を受けながら、働く為に必要な力をつけるために日々努力しています。この春の法改正によって雇用率が上がったことは喜ばしいことですが、制度上、雇用率が上がることのみに、たいていの方は一喜一憂しているのではありません。

働きたいという希望をもちながら、日々の就職への取り組みのなかで、自分自身を見つめ、成功体験を積み重ね、自信につながり就職しているのだということについて、社会の人に知っていただき、そして雇用という形も含めて、社会がより私達を受け入れてほしいと考えているのです。

私自身、このような文章を書きながら、新聞ではありませんが、考えを伝えることの難しさを実感しています。そして、今回の新聞記事を読んで、当事者スタッフである私の思いを書いてみました。

皆さんに伝わりましたでしょうか?

    • 「本当の意味での共生社会の実現」こそが私の強い願いです。

(了)

【連載】時事伴奏②~ニュースと共に考える

法人本部 2018/08/30

認知症検査第一人者、長谷川先生が認知症になったことを公開

多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ 櫻井博

読売新聞に平日連載されている「時代の証言者」というコーナーがあります。

ここに8月11日から長谷川先生の寄稿が特集されています。長谷川先生は認知症研究でも有名な長谷川式スケールという知能検査を作った人で、知っている人も多いかと思います。先生は、診断に使われる認知機能検査の開発者という一面をもちながらも、認知症に罹ったことを昨年の講演会で明らかにしました。このコーナーはかなりつっこんだ内容が書いてあり、時として心揺さぶられることがあります。

この「時代の証言者」というコーナーでは無罪判決を受けた元厚労省の村木厚子さんの証言が連載されたこともあります。

村木さんは警察の取り調べの様子、家族が一致団結して励ましあいながら裁判の日を迎えたこと、面会でたくさんの本を持ってきてもらい、拘留されている間にたくさん読書したことなど、本人の内なる声として語られていました。

今回私が取り上げた長谷川先生も自身の認知症という病気を何故公表したのか、生きる上でなにが大切かをお書きになっています。特に印象にのこっているのは、「聞くという行為はその人が話すまで待ってあげること」で、「その待つという行為がその人に自の時間を差し上げることだ」(連載10回目抜粋)}と書かれているところです。

病気がある人の目線で話す大切さを説き、パーソンセンタードケアが大切であり、「なぜ生きるか」と問う姿勢に私は大変感銘をうけました。また、元気をもらいました。(*パーソンセンタードケア…認知症をもつ人を1人の“人”として尊重し、その人の視点や立場に立って理解し、ケアを行おうとする認知症ケアの考え方/トム・キッドウッドの提唱)

ふと振り返ってみれば、私は自分の病気のことを深く知りたくて、精神保健福祉士の勉強をしたのを思い出しました。その思いを今の仕事につなげていく努力を怠らず進みたいとあらためて思いました。

長谷川先生は今年の2月に89歳になられたとのこと。

現在先生は、今年の9月敬老の日を目指し、絵本の出版を予定しているようです。

私が先生の年まで生きていられたら、統合失調症の絵本を描きたいとそんな夢を描いています。

(了)

東京新聞(8/29付)で理事長がコメントしました

法人本部 2018/08/29

障害者雇用、官公庁水増し問題について「東京新聞 社会面(平成30年8月29日付朝刊)」で小林理事長がコメントを出し、多摩棕櫚亭協会ピアスの活動が記事で取り上げられました。

無題

期間限定連載「時事伴奏」をよろしくお願いします!

法人本部 2018/08/09

「時事伴奏~ ニュースをともに考える①」

多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ   櫻井博

 ◆ はじまりにあたって

往復書簡を書き終え、次の企画でなにをするかこの間考えていました。書簡が自分の過去や病気の振り返りでしたので、目を外に向けて例えば社会ニュースを題材に自分の考えを書いてみたいと思いました。goriIMGL9697_TP_V1

従って今回この企画では、毎月ごとに気になった時事ネタを取り上げ私なりの意見を書いてみたいと思います。トピックスということではホームページアップと時間のずれがあるかとは思います。その点は十分に考慮して題材を選んでいきたいと思います。

私が選んだテーマ(社会に起こる出来事やニュース)を皆さんにも追体験していただきながら、いろいろな視点から「一緒」に考えていただけたらと思っています。連載期間としては半年を予定していますのでよろしくお願いします。

 今月の気になるニュース ~日本ボクシング連盟の問題

◆ 私にとってのボクシングとの出会い

私が高校時代、「ロッキー」という映画がつくられました。ハリウッド映画としてはお金もかけていないし、ストーリーも単調だと一部評論家も言っていましたが、結果的に大ヒットしました。この作品を作った無名の監督は、正にアメリカンドリームを果たしたのですが、同時にこの映画で、ボクシングとは如何に実力がものいう世界ということを示し、このスポーツが脚光を浴びることになりました。

◆ 日本ボクシング協会で何が起こったのか ~マスコミ報道から

今回のこのボクシング連盟の問題のポイントは、組織の中で、ある特定の人物が強大な力を持ち乱用し、物事をゆがめたのgahag-010698ではないか?ということです。具体的には、日本ボクシング協会の会長が不適切な助成金を流用したことやインチキな審判をするよう働きかけたことという二つの疑惑です。但し、私自身はマスコミ報道の扱いにも問題があって、会長の人物像を面白おかしく扱って、焦点がぼやけてしまった感じもあります。

インチキというのは、会長が判定を自分が推すボクサーに判定で勝つよう圧力をかけるということです。先日以来、問題となっている「忖度(そんたく)」があったかということです。「忖度」の意味はもともと「他人の心中をおしはかること。推察。(広辞苑 岩波書店)」とあります。「相手の気持ちを妙に配慮する」という最近はやりのこの言葉は、悪い意味で使われることが多いように思います。少し前に流行った「空気をよむ」と同様な言葉で、現代社会を象徴するもののような気がします。

さて、話を戻しますと、少し前になりますが、日大アメフト部での問題は監督、コーチが自分のチームの選手に相手にケガをさせるように強要した事件もありました。プレイに関わらない選手に後ろからタックルする映像は何度となくテレビに流れました。ケガをさせた選手が一人で真実を述べるという記者会見を行い、監督、コーチは懲戒免職というかたちで終わりました。これなども監督という立場を使った権力の濫用といえるのではないでしょうか?

結局、この問題は複数の人の告発というかたちでマスコミに取り上げられました。

権力が集まる中枢の人物が現場の人(日本ボクシング協会では審判、日大アメフトでは選手)に圧力をかけても、それを告発する人がいるという精神風土が日本にはまだまだあることはせめてもの救いでありました。

◆ 日本の闇は、他人事ではないかも?

最近読んだ小説で池井戸潤の「空飛ぶタイヤ」というのがあります。映画にもなった作品です。不良部品によって大事故が引き起こされましたが、その欠陥をひた隠しした大企業である自動車会社と、整備不良を疑われた中小運送会社の社長の戦いの物語です。社長である主人公の正義感が何度となく折れそうになりますが、最後には勝つという話であります。

先ほどの話ではありませんが、自動車会社といういわば大権力との戦いでもあり、この小説に人気が集まるのは、日本人の間ではこの手の話がそこらにへんに転がっていることの証左であるのかもしれません。

私の働く福祉の世界ではこういうことを耳にすることはあまりありませんし、実経験もありません。ただし、精神医療・病院の場合はどうなのでしょうか?

かなり、最近は医師と患者の間ではインフォームドコンセント(説明責任)などがすすんできて、比較的対等な関係になってい無題るような気がします。丁寧な説明をしてくれる先生、優しく接してくれる先生も増えてきているような気がします。しかし、そもそも医療には医師を頂点としたヒエラルキー(ピラミッド型の階層)があるといわれています。例えば、山崎豊子の「白い巨塔」には医学界に関わる人物の傲慢さやいやらしさなど、理想的な医者の人や裁判でやむにやまれず偽証した医者が最後には真実を言うすがたも思い出されます。これはなどは極端かもしれませんが、「医療における権力構造」の一端を見た思いがしました。もちろんこれは小説の世界でしたが。

ヒエラルキーは緊急時の人命救助など、治療に対して、組織が同じ方向を向くための指示系統の仕組みとして医療の中に作られているのだと、いい意味で解釈しています。しかし、その仕組みが少なくとも私たち治療を受ける者にとって権威的ではなく(医師からの一方的なものではなく)、しかも治療上の不利益にならないという視点で見ていく必要があるのではないかと私は考えました。

そのように考えると、ボクシングの問題も日大のアメフト問題も私たち精神障がい当事者にとって、全くの他人事ではないように思います。

皆さんはどう思われますか?

(了)

「じっくり」という事。~なぜ今、往復書簡なのか?~

法人本部 2017/11/02

「往復書簡の様な事が出来ないだろうか?」こんな事をスタッフの荒木さんに相談したのはまだ暑さが残る頃でした。新体制がスタートして半年が過ぎようとしていた頃の事です。創設世代の熱さはそのまま引き継ぐにしても、「私達なりの外部への発信の仕方はどの様にしていけばいいのか?」そんな事に悩んでいました。併せて、福祉分野に参入してくる民間事業所の広報力に、資本もマンパワーも敵わない中「どの様に対抗していったらいいのだろうか?」という思いもありました。

そんな時に、口について出たのが書き出しの言葉です。今はSNSの時代、スマートフォンが一台あれば世界と繋がる事が出来ます。時間も場所も選ばず、情報伝達も早い、倍々ゲームのように拡散するその広がりが、SNSの魅力なのだと思います。だから、生き馬の目を抜くような現代に、このコミュニケーションツールは爆発的な人気があるのでしょう。

でも、だからあえて「往復書簡」と考えました。「手紙」は一人の人が、ある特定の人に向けて、自分の思いを綴ったもの。そこからは、その人の心の形が見えてきます。SNSの様は速さや、一気に拡散する広がりはありませんが、そこには「じっくり感」があります。常に宿題を抱え、それに答えを迫られる日常の繰り返しは、人の心を手に取って味わう事を後回しにします。

先日、障害者雇用企業支援協会(SASEC)を訪ねました。混迷を極める障害者雇用の現状を、どう読み解けばいいのか?ヒントが欲しくて数々の質問をする私に、諭すように畠山理事がおっしゃった言葉が印象的でした。「障害者雇用は雇用促進を急ぎすぎるばかり、支援者、企業、そして、当事者自身もじっくり育て、育つ事をやめてしまったんでしょうね・・・・」

もしかしたら、今起こっている企業の不祥事などの社会問題は、世の中が「じっくり」をやめてしまった事と関係があるのかもしれません。ただ、この激流のような社会の流れを戻すことは出来ないでしょう。ですから、この流れに乗りつつも、ホームページの中だけでも、一つのテーマに時間をかけて考えていきたいと思いました。

  それを担うのは、櫻井さんと荒木さん、これまた二人がじっくりと練った企画です。両氏なら役者に不足はありません。据えたテーマも、なかなか本質的もので答えが出るのか?とも思いますが、私も二人の手紙を読みながら、時間をかけて一緒に考えていきたいと思います。

(理事長 小林 由美子)

特集/連載 『往復書簡』
www.shuro.jp/tag/friendship-letters 👉

当事者発信

法人本部 2017/10/16

9月の末に連日、当事者の方々の訪問がありました。(詳しい内容は、9月27日、28日にすでに公開されている櫻井さんの記事をお読みください。)

お一人は宮内さん、国立市在住の方です。現在、市内初になる依存症の自助グループを立ち上げようと奮闘されています。ご自身も発達障害とギャンブル依存を抱えていらっしゃいますが、自助グループに出会い、回復した体験をもとにグループ立ち上げを考えたそうです。「どんな依存症でも広く受け入れ、様々な方が利用できるグールプにしたい。」と、訪問時に熱い思いを語ってくださいました。

もうひと方は、青梅市で「ぶーけ」というピアサポートグループの活動をしている松井さんです。仲間の方々と5名で来所してくださいました。「ぶーけ」は10数年前から、当事者活動を続けている団体ですが、今、過渡期を迎え、今後どの様な方向に進めていくのかを検討している最中との事でした。「活動を発展させていくためには、経済基盤の安定がとにかく大切」と、話される姿は正に経営者。こちらもまた熱い思いを語ってくださいました。

そして先週、ピアスOBで現在、ピアサポーターとして活躍している塩田由美子さんからメールをいただきました。そこには、メッセージと共に、都が発行しているミニ通信が添付されていました。中身を空けてみると、彼女が多摩総合保健福祉センターのデイケアプログラムで、講師を務めた時の様子が掲載されていました。統合失調症で何度も入院をしたり、薬をやめて病状悪化してしまった事、それでも自分ができる事があると始めたピアサポーターの活動の様子など、様々な体験をお話された様です。結果は大好評。メールにも「当事者の自分がそこに居させていただけて、なんらかの役に立てることは、うれしいし、やりがいを感じています。」とありました。

この2週間の間に相次いで聞いた当事者発信の言葉、そこには力強さがありました。

今、平成30年の精神障害者の雇用率算入に向けて、障害者雇用の現場は大きく揺れています。規制緩和後の就労移行支援事業所の乱立や、障害者を専門にした転職サイトの活況さなども手伝って、どこに向かっていくのか混迷を極めています。今まで私達が大切にしてきた就労支援のスタイルなどとは関係なく、時には禁じ手としてきた様な手法で支援が進んでいく現状を見ると、自分たちの手詰まり感さえ感じます。

そんな矢先に続いた当事者発信の言葉の数々。それは私に「なんだこの人たちがいるじゃない!」と気付かせてくれるものでした。以前、天野前理事長にこんな事を言われたことがありました。「あなたはメンバーの事をまだ信頼しきれていないのよ。」と。そう忘れていました。福祉市場は混迷を極めていますが、それとは関係なく当事者は前に進み、着実に力をつけている事を・・・・。

「ぶーけ」の方々がいらした時に、棕櫚亭のピアサポートグループ「SPJ」との懇親会がありました。その時、あるSPJメンバーがこんな質問を投げかけました。「私達は何をしていけばいいんだろう?」、それに答えて松井さんは「とにかく続ける事だよ、細々でもいいから・・・・」と話されました。その言葉は、少々泥臭くても、前に進んでいく体験からしか生まれないものだと思います。そして同時に「私もとにかく続けなくては。前に進んでいかなくては。」と、私自身に渇を入れてくれるものでもありました。                                  (理事長:小林 由美子)

追伸:棕櫚亭のホームページで新しい連載が始まります。棕櫚亭当事者スタッフの櫻井博さんとスタッフの荒木浩さんが、往復書簡の形をとって、互いの意見を交換していきます。荒木さんからの手紙に返信する形で、櫻井さんの当事者発信が始ります。スタートは今週水曜日です。是非ご一読ください!!

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