「就労支援は誰のためにあるのか?」
新体制が本格的にスタートした平成29年度が終わろうとしています。個人的には季節を感じる間もなく、走り抜けた(走り抜けてしまった??)一年間でした。そしていよいよ平成30年度、障害者総合支援法や報酬単価の改正、精神障害者の法定雇用率算入と、様々な変化が待ち受ける激動の一年となりそうです。特に、法定雇用率の算入は、棕櫚亭がこの数十年、力を入れてきた就労支援に大きな影響を与えることが予想されます。
棕櫚亭が通所授産施設ピアス(現:就労移行支援事業所ピアス)を開所したのは、平成9年、今から20年以上も前の事です。「どうすれば当事者の方々の「働きたい」に応えられるのか?」を考え、働く準備の場として、完全通過型のトレーニング施設としてピアスはスタートしました。当時は、精神障害者の就労支援を行っている事業所は皆無に等しく、モデルもない中、試行錯誤を繰り返し、現在のピアスはあります。
さらに、平成18年には「障害者就業・生活支援センターオープナー」を開所させ、「就労準備」だけではなく、「就労定着」にまで支援を広げ「働き続けられる」システムを作り上げていきました。そして、この20年間で400名近い方々が就職されています。
これらの取り組みを通して、私たちが世の中に伝えていきたかった事は、「精神障害者も、丁寧な準備をすれば再発する事なく働く事が出来る。そして、適切な支援があれば、働き続ける事が出来る。」という事です。
確かに今、障害者雇用、とりわけ精神障害者の就労支援には、一見すると追い風が吹いています。都内には就労移行支援事業所がひしめき合い、障害者向けの転職サイトも活況です。そのような状況を受けて、精神障害者の就職者数は上昇の一途を辿ります。
しかし一方で、職場定着率は、就職後3か月時点で69.9%、1年時点で49.3%と、約半数の方々が離職していくというのが現状です。(2017年独立行政法人高齢・障害・求職者雇用機構調査)さらにそれは数年前の調査と変わらず、「病状悪化」は離職理由の上位にあがります。こんな状況を見ながら最近、ふと考える事があります。
「私達はこんな事を目指してきたのだろうか?」・・・・
そこで今回、「精神障害者の就労支援」を問い直す意味も込め、ピアスがNHK・Eテレ(教育テレビジョン)で放送中の「ハートネットTV」の取材を受ける事になりました。そこには、一人のピアス利用者の方のトレーニング風景が映し出される予定です。その映像を通して、棕櫚亭の就労支援が大切にしてきたものが伝わればと思っています。
放送は、
NHK/Eテレ 4月3日(火)『精神障害者と働く 第1回 「働き続けるために」』20:00~
ピアスはその中の一部に登場する予定です。ぜひご覧ください。
規制緩和後、株式会社等の台頭により就労支援は支援ではなく、ビジネスになろうとしています。ですが、こんな時だからもう一度考えたいと思います。「就労支援は誰のためにあるのか?」を、そしてそんな状況に少しでも一石を投じられる、そんな組織であり続けたいと思っています。
(平成29年度最後の日に 理事長 小林由美子)