アルジャジーラがやってきた!~放映編~

法人本部 2018/11/13

無2題

10月のお知らせで、省庁の障害者水増し雇用問題について、中東カタールに本拠地を持つアルジャジーラが取材に来たことをお伝えしました。
そして、今回はその第二弾。
今月9日にその模様が放映された事をお伝えいたします。

今回、棕櫚亭では水増し問題の取材を受けましたが、取材全体のテーマは「Japan’s disability shame」直訳すれば、「日本の障害は恥」と言う、もっと大きく、もっとショッキングなもの。
取材前には、「日本は、2020年にオリ・パラピックを控えているが、来日していつも思うのは、外で障害者に出会わないと言うこと。海外(とりわけ欧米)では、もっと普通にダウン症の子供等に出会うのに…そんな疑問に端を発したのが今回の企画です。日本人の障害者観が浮き彫りになる様なものになればと思っています。」と、そんな説明を受けました。

取材先は棕櫚亭の他に、旧優生保護法の下、精神病者にさせられ、無理やり精神病院に入院、強制不妊手術を受けた男性の半生や、津久井やまゆり園で起きた障害者殺傷事件の犠牲となり、辛うじて生き残った被害者家族の今。さらにはパラリンピックを目指す青年アスリートなど、30分番組では収まらない内容ばかりものばかりでした。

9日当日、私もインターネットで番組を見ましたが、言い方は不謹慎かもしれませんが、水増し雇用も吹き飛ぶ、それ以前の日本ひいては日本人が、障害者の尊厳をどの様に捉えているのかを大きく問われる様な番組の仕上がりでした。しかし、その延長線上に今回の省庁の水増し問題が繋がっているのだという事も痛感せずにはいられない30分間でした。

最後にこんな事を思い出します。取材時、インタビュアーがこんな事を私に問いました。「日本人は全てに完璧を求めすぎるのでは?」と。それは何かに限定された質問と言うよりは、今回の取材で彼が感じた日本全体への率直な感想だったように私には思えました。
日本が世界に誇る「おもてなし」。しかしこれは、もしかしたら障害者はもちろん、日本人全体にある窮屈さを強要しながら成り立っているのかもしれません。

精神障害者の幸せ実現を掲げながら、その問の答えに窮した私も、その中にどっぷり浸かった一人なのかもしれない・・・・そんな事を、アルジャジーラはやって来て、私に気付かせてくれました。
とにもかくにも、貴重な体験となりました。

理事長 小林由美子

アルジャジーラ*オンライン記事はこちらから

*映像はこちらから(1:40~)

【連載】時事伴奏③~ニュースと共に考える

法人本部 2018/09/10

「障がい者雇用率」水増し報道を受けて

多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ 櫻井博

東京新聞8月29日朝刊で官公庁の障がい者就労水増し問題について、小林理事長のインタビュー記事が3面にて大きく取り上げられました。

      • 障がい当事者スタッフ(ピアスタッフ)である私の見解を少し書かせていただきたいと思います。

この記事について、誤解のないよう補足すると、精神障がい者はその特性で様々な症状があり一人一人症状も異なるし、仕事の特性でマッチングも大切だということです。つまり、紙面でいう精神の病を2つの特徴だとは簡単097d9e0c03342fb0ebf122b507073661_tに言い切れないと考えています。

そもそも一般紙を読む読者の方で、障がい者に関わったことのない人の中には「障がい者って働けるの?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。

案外、障がい者に関する記事は、書き手の力量や読み手の力量などが問われる難しい問題のかもしれないと思いました。

後日談として、小林理事長から聞いた話なのですが、取材のときに説明した「チャレンジ雇用」の話が取り上げられなかったということです。行政が雇用を進める方法として、チャレンジ雇用というものを活用しているのですが、これについて私なりに少し解説したいと思います。

チャレンジ雇用※1)というのは、行政が1年間ぐらいの短い期間、障がい者を非常勤職員として雇う形態です。ハローワーク等にこの期間を就労した期間として報告し、その後民間企業へ就労する方もいます。すべてではないにしろ、このような雇用形態が、障がい者雇用としてカウントされていることは少し問題であると思うのです。

※1)チャレンジ雇用とは、障害者を、1年以内の期間を単位として、各府省・各自治体に おいて、非常勤職員として雇用し、1~3年の業務の経験を踏まえ、ハローワーク等を通じて 一般企業等への就職につなげる制度です    (厚生労働省HPより)

残念ながら、障がい者就労という枠組みで働くかたが、正社員になれる確率はとても低いです。したがって、中央官庁こそチャレンジ雇用ではなく正職員として雇い、障がい者と一緒に働くということはどういうことか、現場で知ってもらう努力をしてもらうことが大切だと思います。

民間の会社はその意味では相当努力していると思います。雇用率が達成されなければ、罰金が課されることもその一因かもしれません。

但し、私としては、特例子会社という制度については若干の疑問を感じています。障がい者だけを集めて、同じ0d8ee6c371902d77196ab3bc4c976bd8_tフロアーで雇用することをいうのですが、大手の会社はこの制度を活用しているところもあります。確かにこのほうが障がい者を管理しやすいし、特性もいかされるかもしれません。が、しかし健康な人も障害のある人も一緒に働く社会、つまり共生社会という考えかたがあります。この考え方によると、この特例子会社というやり方は、共生という意味で疑問が残ります。

最後に、新聞の見出しとして「職場環境の整備を!」とあったのですが、小林理事長は障がい者雇用の問題は、制度や職場環境の整備はもちろんですが、働きたい障がい当事者の準備の必要性も常日頃話されています。そういう意味で、障がい者を雇う、働けるようになるには時間がかかるということを小林理事長は訴えたかったのではないかと思います。

就労移行支援事業所ピアスでも障害がある人は最大で2年間という期間のなかで、「1.就労トレーニング」「2.就労プログラム」「3.個別相談」を受けながら、働く為に必要な力をつけるために日々努力しています。この春の法改正によって雇用率が上がったことは喜ばしいことですが、制度上、雇用率が上がることのみに、たいていの方は一喜一憂しているのではありません。

働きたいという希望をもちながら、日々の就職への取り組みのなかで、自分自身を見つめ、成功体験を積み重ね、自信につながり就職しているのだということについて、社会の人に知っていただき、そして雇用という形も含めて、社会がより私達を受け入れてほしいと考えているのです。

私自身、このような文章を書きながら、新聞ではありませんが、考えを伝えることの難しさを実感しています。そして、今回の新聞記事を読んで、当事者スタッフである私の思いを書いてみました。

皆さんに伝わりましたでしょうか?

    • 「本当の意味での共生社会の実現」こそが私の強い願いです。

(了)

【連載】時事伴奏②~ニュースと共に考える

法人本部 2018/08/30

認知症検査第一人者、長谷川先生が認知症になったことを公開

多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ 櫻井博

読売新聞に平日連載されている「時代の証言者」というコーナーがあります。

ここに8月11日から長谷川先生の寄稿が特集されています。長谷川先生は認知症研究でも有名な長谷川式スケールという知能検査を作った人で、知っている人も多いかと思います。先生は、診断に使われる認知機能検査の開発者という一面をもちながらも、認知症に罹ったことを昨年の講演会で明らかにしました。このコーナーはかなりつっこんだ内容が書いてあり、時として心揺さぶられることがあります。

この「時代の証言者」というコーナーでは無罪判決を受けた元厚労省の村木厚子さんの証言が連載されたこともあります。

村木さんは警察の取り調べの様子、家族が一致団結して励ましあいながら裁判の日を迎えたこと、面会でたくさんの本を持ってきてもらい、拘留されている間にたくさん読書したことなど、本人の内なる声として語られていました。

今回私が取り上げた長谷川先生も自身の認知症という病気を何故公表したのか、生きる上でなにが大切かをお書きになっています。特に印象にのこっているのは、「聞くという行為はその人が話すまで待ってあげること」で、「その待つという行為がその人に自の時間を差し上げることだ」(連載10回目抜粋)}と書かれているところです。

病気がある人の目線で話す大切さを説き、パーソンセンタードケアが大切であり、「なぜ生きるか」と問う姿勢に私は大変感銘をうけました。また、元気をもらいました。(*パーソンセンタードケア…認知症をもつ人を1人の“人”として尊重し、その人の視点や立場に立って理解し、ケアを行おうとする認知症ケアの考え方/トム・キッドウッドの提唱)

ふと振り返ってみれば、私は自分の病気のことを深く知りたくて、精神保健福祉士の勉強をしたのを思い出しました。その思いを今の仕事につなげていく努力を怠らず進みたいとあらためて思いました。

長谷川先生は今年の2月に89歳になられたとのこと。

現在先生は、今年の9月敬老の日を目指し、絵本の出版を予定しているようです。

私が先生の年まで生きていられたら、統合失調症の絵本を描きたいとそんな夢を描いています。

(了)

東京新聞(8/29付)で理事長がコメントしました

法人本部 2018/08/29

障害者雇用、官公庁水増し問題について「東京新聞 社会面(平成30年8月29日付朝刊)」で小林理事長がコメントを出し、多摩棕櫚亭協会ピアスの活動が記事で取り上げられました。

無題

期間限定連載「時事伴奏」をよろしくお願いします!

法人本部 2018/08/09

「時事伴奏~ ニュースをともに考える①」

多摩棕櫚亭協会 当事者スタッフ   櫻井博

 ◆ はじまりにあたって

往復書簡を書き終え、次の企画でなにをするかこの間考えていました。書簡が自分の過去や病気の振り返りでしたので、目を外に向けて例えば社会ニュースを題材に自分の考えを書いてみたいと思いました。goriIMGL9697_TP_V1

従って今回この企画では、毎月ごとに気になった時事ネタを取り上げ私なりの意見を書いてみたいと思います。トピックスということではホームページアップと時間のずれがあるかとは思います。その点は十分に考慮して題材を選んでいきたいと思います。

私が選んだテーマ(社会に起こる出来事やニュース)を皆さんにも追体験していただきながら、いろいろな視点から「一緒」に考えていただけたらと思っています。連載期間としては半年を予定していますのでよろしくお願いします。

 今月の気になるニュース ~日本ボクシング連盟の問題

◆ 私にとってのボクシングとの出会い

私が高校時代、「ロッキー」という映画がつくられました。ハリウッド映画としてはお金もかけていないし、ストーリーも単調だと一部評論家も言っていましたが、結果的に大ヒットしました。この作品を作った無名の監督は、正にアメリカンドリームを果たしたのですが、同時にこの映画で、ボクシングとは如何に実力がものいう世界ということを示し、このスポーツが脚光を浴びることになりました。

◆ 日本ボクシング協会で何が起こったのか ~マスコミ報道から

今回のこのボクシング連盟の問題のポイントは、組織の中で、ある特定の人物が強大な力を持ち乱用し、物事をゆがめたのgahag-010698ではないか?ということです。具体的には、日本ボクシング協会の会長が不適切な助成金を流用したことやインチキな審判をするよう働きかけたことという二つの疑惑です。但し、私自身はマスコミ報道の扱いにも問題があって、会長の人物像を面白おかしく扱って、焦点がぼやけてしまった感じもあります。

インチキというのは、会長が判定を自分が推すボクサーに判定で勝つよう圧力をかけるということです。先日以来、問題となっている「忖度(そんたく)」があったかということです。「忖度」の意味はもともと「他人の心中をおしはかること。推察。(広辞苑 岩波書店)」とあります。「相手の気持ちを妙に配慮する」という最近はやりのこの言葉は、悪い意味で使われることが多いように思います。少し前に流行った「空気をよむ」と同様な言葉で、現代社会を象徴するもののような気がします。

さて、話を戻しますと、少し前になりますが、日大アメフト部での問題は監督、コーチが自分のチームの選手に相手にケガをさせるように強要した事件もありました。プレイに関わらない選手に後ろからタックルする映像は何度となくテレビに流れました。ケガをさせた選手が一人で真実を述べるという記者会見を行い、監督、コーチは懲戒免職というかたちで終わりました。これなども監督という立場を使った権力の濫用といえるのではないでしょうか?

結局、この問題は複数の人の告発というかたちでマスコミに取り上げられました。

権力が集まる中枢の人物が現場の人(日本ボクシング協会では審判、日大アメフトでは選手)に圧力をかけても、それを告発する人がいるという精神風土が日本にはまだまだあることはせめてもの救いでありました。

◆ 日本の闇は、他人事ではないかも?

最近読んだ小説で池井戸潤の「空飛ぶタイヤ」というのがあります。映画にもなった作品です。不良部品によって大事故が引き起こされましたが、その欠陥をひた隠しした大企業である自動車会社と、整備不良を疑われた中小運送会社の社長の戦いの物語です。社長である主人公の正義感が何度となく折れそうになりますが、最後には勝つという話であります。

先ほどの話ではありませんが、自動車会社といういわば大権力との戦いでもあり、この小説に人気が集まるのは、日本人の間ではこの手の話がそこらにへんに転がっていることの証左であるのかもしれません。

私の働く福祉の世界ではこういうことを耳にすることはあまりありませんし、実経験もありません。ただし、精神医療・病院の場合はどうなのでしょうか?

かなり、最近は医師と患者の間ではインフォームドコンセント(説明責任)などがすすんできて、比較的対等な関係になってい無題るような気がします。丁寧な説明をしてくれる先生、優しく接してくれる先生も増えてきているような気がします。しかし、そもそも医療には医師を頂点としたヒエラルキー(ピラミッド型の階層)があるといわれています。例えば、山崎豊子の「白い巨塔」には医学界に関わる人物の傲慢さやいやらしさなど、理想的な医者の人や裁判でやむにやまれず偽証した医者が最後には真実を言うすがたも思い出されます。これはなどは極端かもしれませんが、「医療における権力構造」の一端を見た思いがしました。もちろんこれは小説の世界でしたが。

ヒエラルキーは緊急時の人命救助など、治療に対して、組織が同じ方向を向くための指示系統の仕組みとして医療の中に作られているのだと、いい意味で解釈しています。しかし、その仕組みが少なくとも私たち治療を受ける者にとって権威的ではなく(医師からの一方的なものではなく)、しかも治療上の不利益にならないという視点で見ていく必要があるのではないかと私は考えました。

そのように考えると、ボクシングの問題も日大のアメフト問題も私たち精神障がい当事者にとって、全くの他人事ではないように思います。

皆さんはどう思われますか?

(了)

ピアスがNHK・Eテレの取材を受けました!いよいよ放送・4月3日(火)20:00~!!

法人本部 2018/03/31

「就労支援は誰のためにあるのか?」

新体制が本格的にスタートした平成29年度が終わろうとしています。個人的には季節を感じる間もなく、走り抜けた(走り抜けてしまった??)一年間でした。そしていよいよ平成30年度、障害者総合支援法や報酬単価の改正、精神障害者の法定雇用率算入と、様々な変化が待ち受ける激動の一年となりそうです。特に、法定雇用率の算入は、棕櫚亭がこの数十年、力を入れてきた就労支援に大きな影響を与えることが予想されます。

棕櫚亭が通所授産施設ピアス(現:就労移行支援事業所ピアス)を開所したのは、平成9年、今から20年以上も前の事です。「どうすれば当事者の方々の「働きたい」に応えられるのか?」を考え、働く準備の場として、完全通過型のトレーニング施設としてピアスはスタートしました。当時は、精神障害者の就労支援を行っている事業所は皆無に等しく、モデルもない中、試行錯誤を繰り返し、現在のピアスはあります。

さらに、平成18年には「障害者就業・生活支援センターオープナー」を開所させ、「就労準備」だけではなく、「就労定着」にまで支援を広げ「働き続けられる」システムを作り上げていきました。そして、この20年間で400名近い方々が就職されています。

これらの取り組みを通して、私たちが世の中に伝えていきたかった事は、「精神障害者も、丁寧な準備をすれば再発する事なく働く事が出来る。そして、適切な支援があれば、働き続ける事が出来る。」という事です。

確かに今、障害者雇用、とりわけ精神障害者の就労支援には、一見すると追い風が吹いています。都内には就労移行支援事業所がひしめき合い、障害者向けの転職サイトも活況です。そのような状況を受けて、精神障害者の就職者数は上昇の一途を辿ります。

しかし一方で、職場定着率は、就職後3か月時点で69.9%、1年時点で49.3%と、約半数の方々が離職していくというのが現状です。(2017年独立行政法人高齢・障害・求職者雇用機構調査)さらにそれは数年前の調査と変わらず、「病状悪化」は離職理由の上位にあがります。こんな状況を見ながら最近、ふと考える事があります。

「私達はこんな事を目指してきたのだろうか?」・・・・

そこで今回、「精神障害者の就労支援」を問い直す意味も込め、ピアスがNHK・Eテレ(教育テレビジョン)で放送中の「ハートネットTV」の取材を受ける事になりました。そこには、一人のピアス利用者の方のトレーニング風景が映し出される予定です。その映像を通して、棕櫚亭の就労支援が大切にしてきたものが伝わればと思っています。

放送は、

NHK/Eテレ 4月3日(火)『精神障害者と働く 第1回 「働き続けるために」』20:00~

ピアスはその中の一部に登場する予定です。ぜひご覧ください。

規制緩和後、株式会社等の台頭により就労支援は支援ではなく、ビジネスになろうとしています。ですが、こんな時だからもう一度考えたいと思います。「就労支援は誰のためにあるのか?」を、そしてそんな状況に少しでも一石を投じられる、そんな組織であり続けたいと思っています。

(平成29年度最後の日に 理事長 小林由美子)

 

 

やはり「多摩の精神医療を変えたい!!」~二年目のご挨拶に代えて~

法人本部 2017/12/07

先月の11月19日に、理事会・評議員会が開催され無事終了いたしました。思い返せば一年前のこの日、理事長交代が行われ、天野前理事長から理事長職を引き継ぐ事となりました。渡されたバトンは重く、「さぁ、困った、これからどうしよう・・・・」、そんな思いで一杯だった事を思い出します。緊張や不安、焦りや戸惑いと、様々な気持ちがない交ぜとなり、何とも形容しがたい思いばかりが広がっていました。前に進むにもどこに足を置いていいのか分らず、無我夢中の一年だった様な気がします。

でも、具体的な体験や行動は、いい意味で人をシンプルにしていきます。一年前の重たい思いは、少しずつすっきりしていき、不安や緊張に少しの「やりがい」も加わり始めました。躊躇して踏み出せなかった一歩も、「とにかく動こう。」「とにかくやってみよう。」と、思えるくらいになってきました。と、こんな書き方をすると、なんだか順調そうな毎日に聞こえるでしょうが、そんな事はなく、十戦十敗は言い過ぎですが、日々修行、それが新体制を強くしていくと自分に言い聞かせながらの毎日です。

十戦十敗と書きましたが、この一年はたくさんの方々から様々アドバイスを頂きました。時には厳しいお言葉もあり、自分の至らなさを痛感することも多々ありました。しかし、厳しい言葉の裏には、棕櫚亭を大切に思ってくださる思いが透けて見え、「もっともっと自分が大きくならなければ・・・・」と、常に発破をかけてきた様にも思います。また一方で、その何十倍もの温かい励ましやご支援を頂き、改めて、棕櫚亭がたくさんの方々に愛されている事を実感した一年でもありました。そのような方々を残して行ってくれた創設世代には、本当に感謝の思いで一杯です。

こうして二年目に突入した新体制ですが、この一年をどの様に過ごそうかと考えています。その時気になるのが、最近の精神医療、精神病院の動向です。先日参加した東京つくし会主催の「マル障実現都民集会」では、杏林大学の長谷川利夫氏より、身体拘束がここ十年で二倍となり、治療の一環として当たり前に行われているという報告や、巣立ち会の長門大介氏からは「精神疾患を持つ人の余命は20年以上短い」という研究報告がありました。日頃、就労支援の現場に身を置くことが多い私にとっては、非常にショッキングな内容でした。

精神障害者にとって、一番身近なサービスであるはずの精神医療は、何も変わっておらず、むしろ悪い方へと変化している、そして、さまざまな課題は積み残されたまま・・・そんな状況を目の当たりにすると、精神障害者が法定雇用率の算定基礎に加えられ、「働ける時代がやってきた!」とばかりは言っていられない気持ちになります。やはり、私達支援者はこの現状から目を背けず、なんらかのアクションをしていかなければならないと思っています。なぜなら、このつけを払わされるのは、いつも精神障害者の方々自身なのですから・・・・。

 棕櫚亭の始まりは、「多摩の精神医療を変えたい!」という熱い思いからです。それから三十年が経ちました。そして新体制が二年目を迎えた今、やはり「多摩の精神医療を変えたい!」と強く思う今日この頃です。地域からどんな発信が出来るかはわかりませんが、職員一同で試行錯誤しながら、「自分たちが出来る事を考える。」、そんな一年にしていきたい思っています。二年目も温かく、そして時には厳しく見守っていただけたらと思います。                                                                        (理事長  小林 由美子)

 

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「じっくり」という事。~なぜ今、往復書簡なのか?~

法人本部 2017/11/02

「往復書簡の様な事が出来ないだろうか?」こんな事をスタッフの荒木さんに相談したのはまだ暑さが残る頃でした。新体制がスタートして半年が過ぎようとしていた頃の事です。創設世代の熱さはそのまま引き継ぐにしても、「私達なりの外部への発信の仕方はどの様にしていけばいいのか?」そんな事に悩んでいました。併せて、福祉分野に参入してくる民間事業所の広報力に、資本もマンパワーも敵わない中「どの様に対抗していったらいいのだろうか?」という思いもありました。

そんな時に、口について出たのが書き出しの言葉です。今はSNSの時代、スマートフォンが一台あれば世界と繋がる事が出来ます。時間も場所も選ばず、情報伝達も早い、倍々ゲームのように拡散するその広がりが、SNSの魅力なのだと思います。だから、生き馬の目を抜くような現代に、このコミュニケーションツールは爆発的な人気があるのでしょう。

でも、だからあえて「往復書簡」と考えました。「手紙」は一人の人が、ある特定の人に向けて、自分の思いを綴ったもの。そこからは、その人の心の形が見えてきます。SNSの様は速さや、一気に拡散する広がりはありませんが、そこには「じっくり感」があります。常に宿題を抱え、それに答えを迫られる日常の繰り返しは、人の心を手に取って味わう事を後回しにします。

先日、障害者雇用企業支援協会(SASEC)を訪ねました。混迷を極める障害者雇用の現状を、どう読み解けばいいのか?ヒントが欲しくて数々の質問をする私に、諭すように畠山理事がおっしゃった言葉が印象的でした。「障害者雇用は雇用促進を急ぎすぎるばかり、支援者、企業、そして、当事者自身もじっくり育て、育つ事をやめてしまったんでしょうね・・・・」

もしかしたら、今起こっている企業の不祥事などの社会問題は、世の中が「じっくり」をやめてしまった事と関係があるのかもしれません。ただ、この激流のような社会の流れを戻すことは出来ないでしょう。ですから、この流れに乗りつつも、ホームページの中だけでも、一つのテーマに時間をかけて考えていきたいと思いました。

  それを担うのは、櫻井さんと荒木さん、これまた二人がじっくりと練った企画です。両氏なら役者に不足はありません。据えたテーマも、なかなか本質的もので答えが出るのか?とも思いますが、私も二人の手紙を読みながら、時間をかけて一緒に考えていきたいと思います。

(理事長 小林 由美子)

特集/連載 『往復書簡』
www.shuro.jp/tag/friendship-letters 👉

当事者発信

法人本部 2017/10/16

9月の末に連日、当事者の方々の訪問がありました。(詳しい内容は、9月27日、28日にすでに公開されている櫻井さんの記事をお読みください。)

お一人は宮内さん、国立市在住の方です。現在、市内初になる依存症の自助グループを立ち上げようと奮闘されています。ご自身も発達障害とギャンブル依存を抱えていらっしゃいますが、自助グループに出会い、回復した体験をもとにグループ立ち上げを考えたそうです。「どんな依存症でも広く受け入れ、様々な方が利用できるグールプにしたい。」と、訪問時に熱い思いを語ってくださいました。

もうひと方は、青梅市で「ぶーけ」というピアサポートグループの活動をしている松井さんです。仲間の方々と5名で来所してくださいました。「ぶーけ」は10数年前から、当事者活動を続けている団体ですが、今、過渡期を迎え、今後どの様な方向に進めていくのかを検討している最中との事でした。「活動を発展させていくためには、経済基盤の安定がとにかく大切」と、話される姿は正に経営者。こちらもまた熱い思いを語ってくださいました。

そして先週、ピアスOBで現在、ピアサポーターとして活躍している塩田由美子さんからメールをいただきました。そこには、メッセージと共に、都が発行しているミニ通信が添付されていました。中身を空けてみると、彼女が多摩総合保健福祉センターのデイケアプログラムで、講師を務めた時の様子が掲載されていました。統合失調症で何度も入院をしたり、薬をやめて病状悪化してしまった事、それでも自分ができる事があると始めたピアサポーターの活動の様子など、様々な体験をお話された様です。結果は大好評。メールにも「当事者の自分がそこに居させていただけて、なんらかの役に立てることは、うれしいし、やりがいを感じています。」とありました。

この2週間の間に相次いで聞いた当事者発信の言葉、そこには力強さがありました。

今、平成30年の精神障害者の雇用率算入に向けて、障害者雇用の現場は大きく揺れています。規制緩和後の就労移行支援事業所の乱立や、障害者を専門にした転職サイトの活況さなども手伝って、どこに向かっていくのか混迷を極めています。今まで私達が大切にしてきた就労支援のスタイルなどとは関係なく、時には禁じ手としてきた様な手法で支援が進んでいく現状を見ると、自分たちの手詰まり感さえ感じます。

そんな矢先に続いた当事者発信の言葉の数々。それは私に「なんだこの人たちがいるじゃない!」と気付かせてくれるものでした。以前、天野前理事長にこんな事を言われたことがありました。「あなたはメンバーの事をまだ信頼しきれていないのよ。」と。そう忘れていました。福祉市場は混迷を極めていますが、それとは関係なく当事者は前に進み、着実に力をつけている事を・・・・。

「ぶーけ」の方々がいらした時に、棕櫚亭のピアサポートグループ「SPJ」との懇親会がありました。その時、あるSPJメンバーがこんな質問を投げかけました。「私達は何をしていけばいいんだろう?」、それに答えて松井さんは「とにかく続ける事だよ、細々でもいいから・・・・」と話されました。その言葉は、少々泥臭くても、前に進んでいく体験からしか生まれないものだと思います。そして同時に「私もとにかく続けなくては。前に進んでいかなくては。」と、私自身に渇を入れてくれるものでもありました。                                  (理事長:小林 由美子)

追伸:棕櫚亭のホームページで新しい連載が始まります。棕櫚亭当事者スタッフの櫻井博さんとスタッフの荒木浩さんが、往復書簡の形をとって、互いの意見を交換していきます。荒木さんからの手紙に返信する形で、櫻井さんの当事者発信が始ります。スタートは今週水曜日です。是非ご一読ください!!

前理事長 天野聖子さんが東京都功労者表彰されました

法人本部 2017/10/03

東京都では毎年秋に、名誉都民顕彰及び東京都功労者表彰を行なっています。地域活動・文化・教育などと共に東京都の福祉の増進に貢献した方を表彰するというものです。

そして今回、平成29年度東京都功労者の福祉分野で、今年3月末をもって退職された前理事長の天野聖子さんが表彰されました。

身体障がいや知的障がいの分野から遅れることはるか、平成7年にようやく精神保健福祉法が施行され、ようやく精神障がい者の支援が福祉分野に位置づけられましたが、それまでは医療の一部として扱われていました。しかもこの福祉法施行後も、精神障がい者だけ受けられないサービス・手当などが沢山ありました。福祉事業(施設)サービスに至っては、他障がいと横並びになるのを平成18年自立支援法施行まで待たねばなりませんでした。今でこそ「障がい者差別解消法」など法整備が一層進んでずいぶん改善されてきたとは思いますが、当時を知る職員は同じ福祉でも露骨な格差があったことが忘れられません。

そのように考えると、天野さんをはじめ先達が奮闘してくれたことにより、ようやく今の精神保健福祉分野の地位向上に繋がったのではないかと思います。そういう意味では今回の受賞は、「精神保健福祉の幕開け」の第1章として相応しいものだったのだと思います。

記念すべき棕櫚亭30周年と喜ばしきことが重なりましたが、ここで改めてお伝えしたいと思います。

「天野さん、おめでとうございます」

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天野 聖子さん 職 歴 等 期   間
北山病院精神科ソーシャルワーカー(京都府京都市) 昭和46年4月~ 昭和51年3月
川口病院精神科ソーシャルワーカー(埼玉県川口市) 昭和51年4月~ 昭和56年3月
青木病院精神科ソーシャルワーカー(東京都調布市) 昭和56年4月~ 昭和62年3月
くにたち共同作業所棕櫚亭 施設長 昭和62年4月~ 平成9年3月
社会福祉法人多摩棕櫚亭協会 理事 平成9年11月~ 平成12年11月
同上 常務理事 平成12年11月~ 平成21年11月
同上 理事長 平成21年11月~ 平成28年11月
立川ハローワーク相談員 平成7年4月~ 平成9年3月
社会福祉法人はらからの家福祉会 評議員 平成20年10月~ 平成24年9月
同上 理事 平成24年10月~ 平成26年9月
東京都障害者就労支援協議会 委員(福祉保健局) 平成19年4月~ 平成26年2月
東京都地域移行推進専門研修企画検討委員会 委員(福祉保健局) 平成22年9月~ 平成22年10月
障害者総合福祉推進事業検討委員会 委員(福祉保健局) 平成24年4月~ 平成26年3月
独立行政法人高齢障害雇用支援機構 雇用管理サポート協力専門家 平成22年4月~ 平成24年3月
障害者の職業能力測定基準に関する調査研究委員会 委員 平成22年4月~ 平成24年3月
多摩総合精神保健福祉センターと地域関係機関との連絡会議 委員 平成24年4月~ 平成26年3月
東京都障害者職場定着サービス推進事業推進連絡会 委員 平成27年4月~ 平成28年3月
全国就労移行支援事業所連絡協議会 副会長 平成24年8月~ 平成27年3月
東京都福祉保健局障害者就労支援体制レベルアップ研修 委員 平成21年4月~ 平成23年3月

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